掲載日: 2022年2月16日
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なぜ、温かいところで作られていたお米が、寒いところで、たくさん獲れるようになったのですか。
米が北へ北へと広がってきたのは、花がさく時期が早くて冷害に強い品種を創り出してきた、品種改良のおかげです。
遺伝子(いでんし)の変化は、イネが育つ所の気候に合うように少しずつ起こっていきます。そのため、新しい所に持って来られたイネは、その新しい場所の天気や気温に、だんだんなれていきます。
たとえば、東南アジアのイネをいきなり日本にもってくると、葉っぱだけを広げて、全然花がさきません。
熱帯地方から、温帯地方へイネを持って来たり、低い平野から高い山へ持って来ると、冬が来るのが早い分、イネが育つ期間が短くなります。雪が降るほど寒くなってしまっては、イネは育ちませんから、おそく花をさかせていたのでは、イネは自分のタネ(=米)をじゅうぶんに作る時間がなくなります。
イネにとっては初めて体験することであっても、気候の変化に対応して変わってきます。というのは、わずかな遺伝子の変化が起きるために、もともともっていた花をさかせる性質が変わり、花がさく時期がズレて、今までよりも少しだけ早く花がさくイネができてきます。
そして、早くさくことができるようになったイネだけが、寒くなる前に自分のタネを作ることができ、そこの新しい所に残っていくのです。遺伝子の変化は、イネが育つ所の気候に合うように少しずつ起こっていきます。それがくりかえされ、だんだんと北の寒い地方へと広がってきたのです。
答えの最初に、「米が北へ北へと広がってきたのは、花がさく時期が早くて冷害に強い品種を創り出してきた・・・・・」と書きましたが、日本に来てから寒さに強い遺伝子ができたわけではありません。イネは、もともと、寒さに耐えることのできる抵抗力(ていこうりょく)をもっていました。
イネの「寒さに耐えることのできる抵抗力」でがんばらないといけない時期はいくつかあって、
などがあります。
イネにとって、一番重要なのが、2.の花粉ができ始める時期です。日本の品種で、このころの寒さに対する抵抗力が特に強いのが「コシヒカリ」などで、この血を受け継いだ「ひとめぼれ」「はえぬき」も同じくらい、特に強くなっています。
寒さに耐える抵抗力が強いという遺伝子だけでなく、他の性質でも、優れた性質の遺伝子をもっている品種は、イネが最初に生まれた場所に多く集まっています。外国には、日本のイネと同じか、より強い抵抗力をもつ品種があるのです。たとえば、
などです。
南の方の、イネの先祖に近い所のイネが、寒さに強い遺伝子をもっているということは、イネは、もともと寒さには強いのです。冷害が起きているのは日本だけではありません。東南アジアや南アジアの山地(標高が高い所)でも起きています。
寒さに会いやすい所では、世界中どこであっても、寒さに対する抵抗力が強い品種を植えなければなりません。ただ、寒さに強ければそれだけでいいかというと、日本の場合、実際は、収量が多くなければなりませんし、品質や味が良くなければだめです。
収量や味を第一に考えて品種改良をすると、他の性質、たとえば、寒さに対する抵抗力が弱くなってしまった、ということが起きやすいのです。実際に、日本にある品種よりも、もともと南にある品種の方が強いということは、寒さに対する優れた遺伝子を日本の品種へ、じゅうぶんに受け継いでくることができなかったということです。
どれもこれも全部の性質を、同時にすべて良くすることが難しいため、品種改良は大変なのです。
この質問集の[質問]山形県の庄内平野は、なぜ、全国に比べて面積当たりの米の生産量が高いのですか?や[質問]北のほうで10アール当たりのお米のとれる量が南のほうより多いのはなぜなのか、調べています。わたしは品種改良をしているから、とれる量が多くなるのではないのかと思いました。本当はどうなのですか?も見てください。