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掲載日: 2022年2月16日

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質問

バイオ技術ってなんですか?バイオ技術はどんな役目をしているのか?

答え

「バイオ技術」つまり、「バイオテクノロジー」ということばは、1980年ごろから出てきた新しいことばですが、その中身をみると、最近になって突然出てきたものではありません。動物や植物などの生物がもともと持っている働きを利用したり、あるいは、それを改良して人間のために役立たせるための技術として、昔から人間は、バイオテクノロジーを利用してきました。

たとえば、お酒、みそ、しょうゆ、納豆(なっとう)、チーズ、ヨーグルトなどは微生物(びせいぶつ)を上手に使って、人間が作ったものです。「生物がもともと持っている働きを利用する」という意味では、これもバイオテクノロジーです。日本では、古い書物である「日本書紀(にほんしょき)」や「古事記(こじき)」に日本の大昔の神様の話が書いてあり、神様たちがお酒を飲む話が出てきます。このお酒は、おそらく米やムギやトウモロコシなどを口の中でかみくだいて、はき出したものを「発酵(はっこう)」させたものです。

口の中のだ液の中には、アミラーゼという酵素(こうそ)があり、お米やムギやトウモロコシのでんぷんは、アミラーゼでブドウ糖という糖分に分解されます。これに、酵母(こうぼ)という微生物(びせいぶつ)を入れると、酵母が働いて糖分をアルコールに変えてくれます。

古代のエジプトでも、ブドウ酒やムギで作ったお酒があり、作り方を書いた本が残っています。インドでも古くから木のしるからお酒を作っていました。どちらの作り方も、原料のブドウ糖かでんぷんを、ムギがもっているアミラーゼという酵素で糖分に変えて、それを酵母の力でお酒にしたのです。中国ではムギがもっているアミラーゼという酵素の代わりに、カビを利用してでんぷんを糖に分解して、これを酵母の力でお酒にしていました。

このように人間は、昔から酵素とかカビや酵母などの微生物を上手に利用してきました。ただし、こうした酵素や微生物があることを知っていて使ったわけでなくて、こんなことをすると次はこうなる、というさまざまな経験から、お酒などを作っていたのです。

小学生向けにお酒の話でごめんなさい。もうちょっと、させてもらうと、お父さんが好きなビールを作るにしても、19世紀までは、ムギの芽を出させて水を入れておき、この中に空気の中から自然に飛び込んでくる酵母を利用するという原始的な方法でした。1878年にビールを作る働きをする酵母だけをきれいに取り出すことに成功したのがきっかけで、今の、ビールを作り出す技術の基本ができたのです。

話を少し変えましょう。動物の品種改良は、野生の動物を家畜(かちく)にしたことに始まります。たとえば、約1万4千年前まで活動していたクロマニヨン人は、野生の動物をつかまえて生活をしてきましたが、そのうち、たくさんの野生の動物を家畜にすることに成功しています。肉を食べたり、お乳をしぼって飲んだりするために、自分たちの近くにおいていたのです。さらにもっと優れた品種を生み出すために、家畜にした動物のかけあわせが何度もくり返されました。

たとえば、中国では、イノシシを改良して作られたブタが5千年前にすでにありました。こうした動物の品種改良は、その後、何千年と続いて、その間に、だんだんと「こんなふうにすれば、こんなものができる」といったことがわかっていって、品種改良の基本的な技術が作られていきました。

また、イネなどの植物の品種改良は、植物を自分たちの手で、畑や田んぼで作る生活が広がっていくのに合わせておこなわれてきました。自然にかけあわせが起こったり、今までとはちがう性質のものが自然にできてきたりしたので、自分たちが生活している所にピッタリと合うものを残していったのです。たとえば、早く実るものがでてくれば、寒い地方でも作れるものがあることや、同じ年に、早く実るものとおそくなって実るものがあれば、これらを組み合わせて作れば、自然の災害の被害を軽くできることも農家は気づいていたのです。

自然に出てきた変わりダネから自分たちに都合の良いものを残していく、という昔のやり方ですが、現在の品種改良も、かけあわせをしたり、もとの品種とはちがう性質を出させて、その中から良いものを選んでいく、という考え方は、まったく変わっていません。

今さかんに研究が行われている現代の「バイオテクノロジー」というのは、ここまで書いてきた、昔からの「こうすれば、こんなふうになる」「こうすれば、こんなことができる」ということを、世界中の研究者がいっぱい、研究してきたことに加えて、19世紀に入ったあたりから急に進んできた科学技術によって、科学的に証明されてきたことで、成り立っているのです。

これは、1980年ごろに生まれた「バイオテクノロジー」ということばが、「バイオロジー(生物学)」と「テクノロジー(技術)」を合わせて作ったことばであることからもわかります。

もう少しくわしく説明すると、パスツール、ダーウィン、メンデルといった人たちの研究が、今の、お酒・みそ・しょうゆ・納豆(なっとう)・チーズ・ヨーグルトの作り方を見つけ出すことに成功し、さらに、「遺伝子(いでんし)」というものが見つかり、この「遺伝子」の働きについても研究が進んでいったのです。つまり、1869年、スイスの研究者が、「遺伝子」の正体となる物質を最初に発見しました。1952年には、アメリカの2人の研究者が「遺伝子」がどんな形をしているのかを発見しました。その研究で、なんと、「遺伝子」というのは、たった4つの物質の並び方で決まるということがわかったのです。

たとえば、この研究は、トランプの4つのマークで説明できます。トランプには、黒のスペード・クローバー、赤のハート・ダイヤがありますが、これのならび方が、もし、ハート・ハート・スペード・クローバーとなっていたら、赤のマークどうし、黒のマークどうしは仲が良く、これの反対側には、ダイヤ・ダイヤ・クローバー・スペードとならんでいて、おたがいに、うでをのばして、2つのまんなかで手をにぎっている、というハシゴのようになっているのです。

このトランプの4つのマークは、もっとも下等な大腸菌(だいちょうきん)から、高等な人間まで、生物すべてに共通しています。何がちがうかといえば動物や植物の種類で、4つのマークのならび方がちがうだけなのです。そのため、「遺伝子組換え(いでんしくみかえ)技術」によって、大腸菌(だいちょうきん)に、人間に役立つ薬(成長ホルモンやインシュリン)を作らせることができるようになったのです。

「バイオテクノロジー」は、生物を人間の生活に役立てるための技術です。「バイオテクノロジー」は、農業・林業・水産業・畜産業ばかりでなく、環境を守ることにも役立つ、強力な技術として、注目を集めているのです。

病気や害虫に強く、たくさんとれて、おいしい農作物の開発や、自然に増やせない、性質の優れた植物を一度にたくさん作ったり、お肉の質が良いものやお乳の量が多い家畜を創り出したり、体が大きくておいしい魚を創り出したり、酵素や微生物を使って、抗生物質(こうせいぶっしつ)・アミノ酸・アルコール類・しょうゆ・甘味料・天然色素などを人工的に大量生産したり、食料生産を増やすことができます。

土の中の微生物で分解されるプラスチックを作り出し、ゴミ・大気汚染(たいきおせん)を減らしたり、天敵(てんてき)を利用して害虫をやっつけたりする方法や、水が少なくても育つ植物を作り出し、砂ばくを緑でいっぱいにすることなどが研究されています。

また、実際に、生活していて出てくる水や、工場から出てくる水の中の有機物(ゆうきぶつ=川や海がよごれる原因)を分解し、地球をよごす成分を取りのぞいて、川に水をもどすのにも微生物が使われています。また、石油タンカーの事故で海に流れ出た石油をとりのぞくのにも、石油を分解する微生物が利用されています。

このように、「バイオテクノロジー」は、昔から人間の生活を良くするための技術として使われてきました。現在も使われていて、また、これからも使われていくのです。