掲載日: 2022年2月16日
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外国での米の品種改良について教えてください。
外国の米の品種改良については、まず、世界の稲研究のセンターと言ってもいい「国際稲研究所」がフィリピンにあります。
米は、アジアのみならず全世界の重要な食料資源であり、21世紀の食料の安定へ向けて、その増産が大きな課題となっています。「国際稲研究所」は、そのような目標のもとに米の収量向上を目指した稲の品種改良事業を行う国際農業研究機関として、1960年、ロックフェラーとフォード両財団の共同出資によりフィリピンに設立されました。現在は、FAOや日本を初めとする各国の援助のもとで運営されている農業研究・研修センターです。英語で「International Rice Research Institute」ということから頭文字をとって「IRRI(イリ)」と呼ばれています。
ここでの品種改良の目標は「稲作による食糧の生産量を増加させる」ことです。水を田んぼに引いてくる「かんがい稲作」、雨水にたよる「天水田稲作」、畑で作る「陸稲の稲作」、うき稲など「深水稲作」に対応した研究をしています。(稲は、水の条件が違うさまざまな生態系に適応した唯一の穀類といえます。そのため、稲の形が違うさまざまな品種に分かれていて、それぞれの生態系に適した米作りの技術が発展してきました。)
バイオテクノロジーを使って世界の最先端を行く研究所ではありませんが、この研究所は、1966年に「かんがい水田」用品種「IR8」の開発に成功しました。これは、当時“奇跡の稲”と呼ばれたインディカ種で、「IR8」は更なる改良を加えながら東南アジアを中心に普及。各国の在来種と交配し、それぞれの国に適した新品種が開発され、開発途上国の食糧生産力は増大しました。これを「緑の革命」とよんでいます。この後も、「IR36」や「IR64」といった品種が、世界最大の栽培面積を達成するなど、稲の研究や品種改良においては世界の中心地として確固たる地位を築いています。
ノーベル賞に輝いた「緑の革命」の主役となった稲の多収品種「IR8」の開発以来、収量が毎年安定するような稲の開発をめざして、病気や害虫に強い性質を取り入れた品種を創り出し、これを生かした米作りの研究をおこなってきました。これまで「国際稲研究所」がおこなってきた品種改良により、多くの稲品種が世界の農業研究機関に配られ、試験されて新品種として広まっているのです。このような努力により、米の生産性はこの30年間に世界平均でほぼ倍増し、飛躍的に進歩しました。
これまで面積当たりの収量は直線的に延びていますが、人口当たりの生産性は1980年代半ばから頭打ちの傾向となっています。そこで、もともと、土地や品種がもっている収量を上げる能力をさらに向上させるため、新しい研究が始まりました。ここで用いられた系統は、これまでに、その研究所で開発された系統ではなく、インドネシアにある熱帯ジャポニカで、今後アジア諸国で広まることが予想される「じかまきさいばい」に適した稲です。米を生産するための基本となる能力が高い米の開発はほぼ終了していて、現在は病気に強くしたり、味を良くしたり、あちこちで試作してみたりと、次の段階に移っています。
日本との関係は、地理的にも近く、日本も稲を重点的に研究してきているなどの共通点があり、他国の農業研究所と比べものにならないほど、関係は深いものがあります。これまで50人以上の日本人が指導的な研究員として研究をおこなってきました。さらに100人以上の大学生や、大学を卒業して博士号をとった人たちが研究活動に参加しています。研究の交流を盛んにするために1990年から、参加する研究者の短期訪問がひんぱんにおこなわれています。
2025年には、必要とされる米の量は8億8千万トン(モミの量で計算)と1990年からみて3億6千万トン増えるものと見込まれています。今後、農業用地を他の目的で使ったりして米作りできる農地が減り、利用できる農業用水が減少して、化学肥料などの使用が制限される中で、米を必要なだけ生産するには、作物の生産能力を高めるような品種改良が必要ですし、土地が米を生産できる能力をもっともっと向上させる必要があります。この難しい目標を達成するためにも、稲研究の先進国である日本から、運営資金ばかりではなく、絶え間ない人的・技術的支援が期待されています。