掲載日: 2022年2月16日
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「はえぬき」が生まれるまで、どのような「工夫」をしましたか?
新しいイネの品種を創るのには、「かけあわせ」から新品種が生まれるまで最低でも10年かかります。ですから、「かけあわせ」をするときは、10年後のことを考えて「かけあわせ」をします。
「はえぬき」は、おいしいお米の品種を創り出すことを目標に、昭和57年に山形県の農業試験場(庄内支場)で「庄内29号」を母親に、「あきたこまち」を父親にして、「かけあわせ」をしました。この母親と父親の組み合わせを、どの品種とどの品種にするか、というのは、品種改良で最初の大事な仕事です。新しい品種創りが成功するかどうかは、この組み合わせの選び方で決まります。
「はえぬき」を創り出す時に「工夫」した1つめは、この組み合わせをうまく考えたことです。
母親の「庄内29号」から、「くき」のたけが短くて倒れにくい性質や、味が良い性質を受けつぐことと、父親の「あきたこまち」からお米のきれいさ・おいしさを受けつぐことをねらいました。
「はえぬき」を創り出す時に「工夫」した2つめは、「かけあわせ」をしてできた子どもを育てて、兄弟の中から良いものを選び出すやり方です。
「はえぬき」は、両親の「かけあわせ」が終わってすぐに、6個の子どもができました。2年めには、その子どもからタネを増やし、600個になり、3年めには、そのまた子どもを増やして660個に、そして、4年めには、なんと1,650個の兄弟ができました。この1,650個の中から、背たけが短くじょうぶなこと、イネの姿が良いこと、病気にかかっていないこと、お米がきれいなこと、などに注意して19個のイネが選ばれました。
この19個のイネを次の年に田んぼに植えてみたところ、将来「はえぬき」になるイネは、花がさく時期が、一番暑くて天気の良い日が続く8月10日ころでした。それまで山形県の広い面積で作られてきた「ササニシキ」より1日か2日遅いくらいで、この時期に花がさくと、お米が実るころは、ちょうどよいすずしさになって、お米がきれいに実るのです。
この年の秋、将来「はえぬき」になるイネには、とてもきれいで、つぶのそろったすばらしいお米が実りました。
「工夫」の3つめは、6年めから8年めまでの3年間に、お米のおいしさを確かめるために、何回も食べてみたことです。というのも、それまでの品種は、イネの背たけが短く、じょうぶな場合は、おいしくないのがふつうでした。
食べることはもちろん、お米の味に関係している「たんぱく質」の量や「でんぷん」の性質(成分)についても、何回も調べてみました。
何回も食べた結果、「はえぬき」は、ねばりの強いごはんになり、かんでいると甘みのある味が広がってきて、とてもおいしいことがわかったのです。さらに、何回も成分を調べた結果、お米にふくまれる「たんぱく質」の量が少ないので、味が良く、ふっくらとしたやわらかいごはんになることや、「でんぷん」の性質が、ねばりのあるごはんを作り出すことなどがわかったのです。
「工夫」の4つめは、ウルトラCの「わざ」を使ってタネを増やして、山形県の農家の人に早くから広い面積で「はえぬき」を作ってもらうようにしたことです。
山形県では、毎年5月に田植えをして9月から10月にイネかりをします。この期間以外は、寒くてお米が作れません。そこで、ウルトラCのやり方とは、平成3年の1月から5月まで、日本で一番南にある、沖縄(おきなわ)県の石垣島(いしがきじま)の田んぼで「はえぬき」を育てたのです。そして、そのタネをかり取ったら、すぐに山形県に持ってきて、タネまきをし、同じ年の6月に、山形県内の4カ所の田んぼに田植えをして、その年の秋にまたタネをとったのです。これが「ウルトラC」のタネの増やし方でした。
最初に15キログラムしかなかったタネが、1年の間に、沖縄と山形で2回作ることで、な~んと!4,700倍になったのです。ここまで増やしたおかげで、次の年の平成4年には、山形県内の7,870けんの農家の、4,378ヘクタールの田んぼで「はえぬき」が作られ、大々的にデビューしました。
「はえぬき」は、「庄内29号」の良いところは全部うけついだだけでなく、これに「あきたこまち」のお米のきれいさが加わり、さらにおいしさがパワーアップした品種です。「はえぬき」は、両親の良い性質をじょうずにもらったので、品種改良がとてもうまくいった、お手本のような品種です。良くない性質は、その性質が良いほかの品種からもらって、今までにないお米を創り出すのが品種改良なのです。
こうしてできた「はえぬき」は、今や山形県の10分の6くらいの面積で作られるまでに増えました。おいしさは、連続して「特A」をとったことで、証明ずみです。