[質問]

 バイオテクノロジーという技術にはどんなものがあるのか、また、もう今ではバイオ技術を使って、米の品種改良が進められているんですか? もし使っているのなら、どこでどうやっているのか、また、これからの米との関係を教えてください。
[答え]

 米の品種改良に使われるバイオテクノロジー(バイオ技術)には、

<1> 放射線や化学薬品などを使って、人工的に変わりダネを創り出す方法(突然変異=とつぜん へんい)

<2> おしべの中の「花粉(かふん)」から1人前のイネにする方法(葯培養=やく ばいよう) ※葯(やく)とは、おしべの先にある、花粉の入った黄色いふくろのことです。

<3> ちがう種類の「細胞(さいぼう)」どうしを電気ショックを与えたり化学薬品を使ったりしてくっつける方法(細胞融合=さいぼう ゆうごう)

<4> ちがう生物などから取り出した「遺伝子(いでんし)」を入れる方法(遺伝子組換え=いでんし くみかえ)

があります。

 <1>の方法で創り出された品種に「ミルキークィーン」というのがあります。国立の研究所で創られたもので、「コシヒカリ」の花がさいたあとに、特別な薬品を使って遺伝子に変化を起こし、米のねばりを強くしたのです。

 「ミルキークィーン」は、冷めてもかたくなりにくいので、ふつうに食べるよりも、弁当やおにぎりなどに向く品種です。福島(ふくしま)県・茨城(いばらき)県などでじっさいに平成9年から作られており、その年から東京などで売られています。

 遺伝子を変化させるのは、放射線や化学薬品による方法だけではありません。イネのからだの細胞を1個1個バラバラにして、その1個1個の細胞から1人前のイネにもどす方法(細胞培養=さいぼう ばいよう)があります。1個の細胞から1人前のイネになるまでの間、遺伝子が変化して、もともとのイネとちがうイネになるのです。

 ある会社の研究所では、このやり方で「コシヒカリ」を材料にして、「コシヒカリ」よりも米のねばりを強くする成分が多くなった品種を創り出しました。「夢ごこち」という品種です。「夢ごこち」は、米の味がとても良いことから、長野(ながの)県・千葉(ちば)県・福島(ふくしま)県で作られています。

 さらに、この研究所は、同じバイオ技術を使って「月の光」という品種から、より作りやすい品種「夢かほり」を創り出し、この品種は埼玉(さいたま)県で作られています。また、同じ方法で「ササニシキ」の改良品種「はれやか」を創り出し、関東地方のほか、京都(きょうと)府・山口(やまぐち)県で作られています。

 <2>の「やく ばいよう」というバイオ技術で創り出されたお米の品種は、私たちの試験場で開発した「里のうた(山形54号)」のほかに下に書いたものがあります。

北海(ほっかい)道の「彩(あや)」
宮城(みやぎ)県の「こころまち」「まなむすめ」
富山(とやま)県の「越の華(こしのはな)」
岐阜(ぎふ)県の「白雪姫(しらゆきひめ)」
千葉(ちば)県の「ふさおとめ」
兵庫(ひょうご)県の「こうのまい」
岡山(おかやま)県の「吉備の華(きびのはな)」
広島(ひろしま)県の「ひろひかり」「ひろほなみ」
高知(こうち)県の「はつなのり」
新潟(にいがた)県の「新潟37号」
大分(おおいた)県の「大分3号」
山口(やまぐち)県の「山口1号」

などなど、「やく ばいよう」というバイオ技術で創り出されたお米の品種を数えれば、きりがありません。「やく ばいよう」は、かけあわせをした後の、品種改良にかかる年数を短くすることができるため、多くの県で使われています。今のところ一番米の品種改良に役立っているバイオ技術です。

 <3>の「ちがう種類の細胞(さいぼう)どうしを電気ショックを与えたり化学薬品を使ったりしてくっつける方法(細胞融合=さいぼう ゆうごう)」では、ふつうはかけあわせができない、日本のイネの細胞と外国のイネの細胞をくっつけて、イネの「くき」が強く倒れにくい、とてもたくさんの米がとれる品種が開発されました。

 <4>の「ちがう生物などから取り出した遺伝子(いでんし)を入れる方法(遺伝子組換え=いでんし くみかえ)」技術では、日本でも次のようなイネが創り出されていて、日本国内で安全かどうかの試験が進められています。

ウイルス病に強いイネ(国立の研究所)
ウイルスがかかりにくくなるような遺伝子を組み込んだものです。
「日本晴」という品種を改良したイネは、組換え品種第1号になりました。

ウイルス病に強いイネ(国立の研究所と会社の研究所の共同)
ウイルスがかかりにくくなるような遺伝子を組み込んだものです。
「キヌヒカリ」という品種の改良をしています。

アレルゲン(アレルギーのもとになる成分)の量が少ないイネ(会社の研究所)
「キヌヒカリ」という品種のアレルゲンをおさえる遺伝子を組み込んだものです。

お米のねばりを増すイネ(会社の研究所)
「日本晴」という品種に、イネがもっている遺伝子を改良したものを組み込んだものです。お米の成分の量を変えることができました。

酒造りに向く、たんぱく質の量が少ないイネ(会社の研究所)
「アキヒカリ」「月の光」という品種に、たんぱく質を作りにくくする遺伝子を組み込んだものです。

除草剤がかかってもかれないイネ(県の試験場)
草をからす除草剤(じょそう ざい)の成分に抵抗力をもつ遺伝子を組み込んだものです。

いもち病に強いイネ(国立の研究所)
いもち病を起こす「病原きん」を活動できないようにする遺伝子を組み込んだものです。イネがもともと、もっていた遺伝子を取り出し、もっと強く働くように改良して、またイネにもどして創り出しました。

害虫がつかないイネ(県の試験場)
害虫に強い遺伝子を組み込んだものです。

 このほか、国立の研究所や大学では、塩が出てくる田んぼでのお米作りに向くイネや寒さに強い米も研究されています。また、太陽の光をもっともっと利用してお米がたくさんとれるようにする研究もおこなわれています。

 それから、これまでは、農家が「イネを作りやすくするために」遺伝子組換え(いでんし くみかえ)がおこなわれてきましたが、これからは「できたお米を食べる人のために」遺伝子組換えが進められていきます。たとえば、

○「たんぱく質が少なく、腎不全(じんふぜん)患者向けのごはん」
(日本の会社とヨーロッパの会社の共同)
遺伝子組換えで米の中にあるたんぱく質の量を減らし、オシッコにたんぱくが出る慢性腎不全という病気の人の食事に使われる米です。

○「母乳成分を多くふくむ米」
(日本の会社)
母乳の成分「ラクトフェリン」を多くした遺伝子組換えイネです。ラクトフェリンには免疫(めんえき)を高める働きがあり、ふだんから食べていれば肝炎などの感染症にかかりにくくなるという効果が期待されています。

というお米の研究が進められています。

 こうした研究が進んでいるのは、これまでの遺伝子組換え食品が「害虫に強い」「除草剤に強い」という農家向けの作物で作っていたために、消費者の理解が得られなかったという研究側の反省があります。

 遺伝子組換えで、このような「健康効果」をねらったもので研究が進んでいるものは、

○コレステロールを少なくして心臓病を予防する大豆
 (「健康」にいいと販売が認められた遺伝子組換え食品第1号)

○鉄分を蓄える働きのある大豆の遺伝子を組み込んだ、貧血に効果のあるレタス
 (鉄分を多くふくむことから、貧血で悩む女性向け)

 さらに、必須アミノ酸(トリプトファン、リジン)を多くふくむイネ、高血圧を抑えるイネ、上の大豆と同じようにコレステロールをおさえる働きのあるイネ、上のレタスのように鉄分の多いイネなどが日本で研究されています。海外では、ビタミン(ベータ・カロチン)が多いイネの研究も進んでいます。

 米の中身だけでなく、とれる米の量をもっと多くする研究も進められていて、イネだけでなく、ほかの植物でも遺伝子組換えの研究は、これからもっともっと進んでいきます。

BACK  質問集に戻る